東京大学LS期末試験【答案】法のパースペクティブ(2015)B評価

平成27年/東京大学LS期末試験【B答案】法のパースペクティブ(太田)

第一.問題1

1.②について

(1)「しっぺ返し戦略」とは、協力的関係を築くか裏切るかという選択肢のあるゲームにおいて、ⓐ相手が裏切るまではこちらは裏切らない(上品)ⓑ裏切られたら裏切り返す(報復的)ⓒ相手が協力する態度へ戻せばこちらも協力へ戻すという戦略のことである。これは相手に追従するといった弱さを見せるというものではなく、相手を裏切り勝利する能力があるのだということを暗に示して、相手と協力関係を選ばせるというものである。

例えば、戦地の最前線では敵国との間で暗黙の停戦状態が生じたことがあり、これはこの戦略に基づくものである。相手が裏切って発砲しない限り、こちらは発砲しない。しかしそれは戦う力がない訳ではないということを示すために、わざと攻撃の威力を見せつけたりするということが行われた。

(2)囚人のジレンマは、ナッシュ均衡とパレート最適が一致しない状況をいう。ナッシュ均衡とは、皆が自己の利益を追求し、合理的な選択をした結果、自己が選択を変えることで利得の改善ができない状況である。皆が裏切り(自白)を選んでいるときに、協力(黙秘)に選択を変えても、相手が変更しなければ利得が増えない。パレート最適とは、相手を犠牲にしなければ利得を再分配しても改善ができない場合をいう。

ア.この状況は望ましくないとして、ジレンマから脱出させるべき場合がある。例えば売買契約において、相手だけが債務を履行すれば自己の利益は5、お互い履行すれば3、お互いに履行しなければ1、自分だけ履行すれば0といった場合に、ナッシュ均衡は(1.1)である。このとき法によって債務不履行は得た利益を没収するという制裁を作れば利得構造は(3.3)(0.0)(0.0)(0.0)となるので、履行をお互いにすることがナッシュ均衡となる。このように法によってナッシュ均衡とパレート最適を一致させることで、利得構造を変化させた方が社会の発展や円滑な生活につながるときは、ジレンマから脱出させるべきである。

イ.これに対して、ジレンマに閉じ込めた方がよい場合もある。寄付ゲームの有限回バージョンからすれば一番最後の回は裏切った方が得であり、そうであれば相手も裏切ってくるであろうから、自分は最後から2回目を裏切った方がよい。そうであればあいても…といった具合に、逆上り推論をしていくと、始めから全部裏切った方がよいということになる。しかしこれでは誰も協力しないということになり、社会が成立しなくなる。このような場合には、例えば終わりがこないかのように見せたりして裏切らないように、つまり協力的に行動させるべく、ジレンマに閉じ込めさせておいた方がよい。

2.①について

(1)議論の論理構造はデータ(D)から主張(C)を導き、それに理由づけ(W)をすることで成立している。ゲームではDとCを各々適当に書いたのにも関わらず、あとから理由Wを何かしらつけることができた。すなわち理由はあとからついてくるものということである。この議論の構造は様々な種類に分類できるが、例えば比喩の論理がある。AならばBといえることを前提として、Aと似ているA’なのだからBになるであろうというもので、論理的にはあまり正しくはないが、和解の当事者を説得させたり、一般市民に何か訴えかける一つの有効な手段とはなりうる。

(2)この論理構造を理解することで、ある程度は相手の主張を壊すときにどこを攻撃したらよいか把握することに役立つと考えられる。例えば法的三段論法では、どの推論段階があやしいのだろうと見極めたり、要件事実論において、事実から法的評価がなされる推論過程に不合理な理由づけがなされていないか等を判断することに役立つといえる。この点で議論の論理の構造分析は、法的三段論法や要件事実論に新たな光をあてているといえる。

第二.問題2

1.問(A)

本調査報告書によると、免震偽造事件には多くの人々がかかわり、偽装を食い止める契機が何度かあったにもかかわらず、結局食い止めることはできなかった。これは以下の4つの点による無責任の構造が生じていたためと考えられる。

(1)同調とは、自分の意見とは異なる場合にも、他者に合わせてしまうというものである。アッシュの研究では、真の被験者1人とサクラにより、どの程度の環境で同調が生じるのかが調べられた。結果はサクラが2人程から同調が始まり、また、他に自分の味方がいれば同調しなくなるといったものであった。これは罰がないにもかかわらず同調が起こり、また内容も単純明快なものであった。したがって、不明確な道徳などあいまいなものにはもっと同調が起こりやすく、懲罰や昇進、減給といった罰のあった今回の事案ではより同調しやすい環境が整っていたといえ、問題行動(偽装)に対する同調が起こった原因の一つであるといえる。

(2)服従はこれと異なり、自己の意思と異なることを強いられている自覚があるのに他者に合わせることをいう。ミルグラムの実験では、65%もの人々が不快感を示しながらも、実験者の4つの指示に逆らわず、最高ボルトまで上げてしまった。この事件でも、逆らうことによる罰などの不利益がなかったにもかかわらずこのような服従が起こってしまったことからすれば、上述のように懲罰等がある状況である本件ではなおさら服従の環境が整っていたといえる。

(3)役割受容によって人間性が暴走したということも原因の一つと考えられる。スタンフォード監獄実験では、看守が段階的にエスカレートしていき、囚人も何でも言うことを聞くようになっていった。本件では例えば、力の強い製造部は自分たちの仕事のしやすいように違法行為であっても、それを周囲に強要したり指示したりしていき、それが次第にエスカレートした面があると考えられる。また反対に、製造部より力の弱い技術部は何でもいうことを聞くようになったのではないかと思われる。さらにもっと細かくみれば上司は上の立場ということで部下への圧力をエスカレートさせ、部下は上司のいうことは全て聞かなければならないという心理的・物理的圧力もあったといえる。

(4)さらに、属人主義もかかわっているように思われる。例えば、乙Aは自分の先に任務にあたっていた乙Bのいうことについて、技術的根拠の確信が得られないにもかかわらず、先任の乙Bの言うことだから合っているのだろうという属人的な判断をしてしまったものと考えられる。

(5)以上の4点から無責任の構造が生まれ、事件につながったと分析できる。

2.問B

(1)同調に対しては、上述の研究結果から次の4点に注意すればよいと考える。すなわち①あいまいな事柄にはより同調が生じやすい②自己の意見の規範と対抗する意見の規範といずれが正しいのか吟味する③他の者に意見を求める際はその者の同調性の高さに注意する④上に立つ者は非頃からフェアな態度をとり、同調が生まれないようにすること、である。

(2)服従に対しては、①その強要をしてくる者に勢力があるか、すなわち本当に背後に圧力があるのか、ないのであれば不利益にならないのであるから対抗するべきであるという方法、②圧力が存在するとしても、それが本当に自己の良心に反する強要なのであれば、方法論的な説得的コミュニケーションをとることという方法が考えられる。

(3)役割受容や属人主義に対しては、そういうものがあり、影響を受けているのではないかと自覚するだけでもその効果を減らせるのではないかと思われる。

(4)これらの方法はある程度法制化すべきである。なぜなら、本件の事件のように重大で人々の生命・身体を害するようなことであっても上述の構造からそれにかかわる人々は無責任・無意識的に行ってしまうことが十分あるからである。このような無責任の構造が簡単に整いうることを考えれば、法の力によって規制をかけるべきである。法制度の内容としては、同調や服従に対抗し、告発しようとする人が不利益を被らないよう徹底的に保護するものでなくてはならないと考える。例えば、告発の窓口を設けて、そこへ来た者の素性は絶対にわからないようにする等のものが考えられる。

以上

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