東京大学LS期末試験【答案】上級憲法(2015)B評価

平成27年/東京大学LS期末試験【B答案】上級憲法

第一.問1

1.本件資料の前段において述べられていることは、私人間に対して憲法がいかに適用されるのか、もしくは一切適用されないのかという問題につき、間接的に適用されるのだという見解を示しているものである。憲法は全法秩序の基本原則であるということから、その下位の法律たる民法等においても、その考え方や趣旨が及ぶのだとするものである。憲法は、国家に対抗して発展してきたものであり、これを私人間にも直接適用するとすれば、憲法上の義務を一般国民にも負わせるということになる。そうすると、国との関係で進化し、国に対して入ってくるなという自由権的な価値が薄れてしまう。したがって、直接に適用されると解することはできない。このことから、一般条項に憲法の趣旨を取り込んで解釈すべきという間接適用説が主張される。

2.しかし、本件資料の中段(「ただこの場合」以下)において、直接に適用すべきではないかとの意見を述べようとしているように思われる。この中段以下で述べられているのはいわゆる司法的執行の論理である。司法的執行というのは、本件資料にもある通り、「差別的措置…を裁判所が認めるならば、国家が不平等な取扱いをしたことにな」るから、として、この裁判所の行為を国家の行為として憲法問題に乗せようとするものである。つまり、人権侵害的行為を裁判所が認容するならば、その人権侵害的行為に裁判所が加担したものと評価でき、その裁判所の司法的な執行を捉えてこれをターゲットとして憲法を適用しようとするものである。後段のアメリカの判例でいえば、「制限協定」という人種差別を内容とする協定に基づいた明渡しや違約金の支払いを裁判所が認容するということは、人権侵害的な当該協定を守るべく強制していることになる。

本件資料は、これらの裁判所の行為を以て、憲法を直接適用するという主張であるが、結局全ての民法問題が憲法問題になってしまいかねず、これを論拠とすることは妥当ではない。

3.別の論拠として考え得るのが、国家の保護義務をコンセプトとするものである。上述の裁判所の執行は、国家行為(state action)を捉える類型であるが、もう一つstate actionとして国家が保護義務を果たさないことにつき、憲法を適用することが考えられないか。

国は国民の権利が害されることのないようにすべきであり、国民を権利侵害から保護すべき義務を負うと解し、国民の憲法上の権利が害されたのだとすれば、それは国が上記義務を果たさなかったということである。その果たさなかったという不作為を国の行為とみなし、憲法を直接適用するということである。

4.しかしこの論拠も妥当ではないと考える。その理由として以下2つ述べる。

(1)国が保護義務なるものを負うということは、国に国民の後見人的地位を与えることになりうる。そうとすれば、国にパターナリスティックな制約を国民にかけていく契機を与えることになりかねない。そしてひいては国が国民を人格的な自律を有するものとして扱わないということにもなりうる。パターナリスティックな制約は常に自律や自己決定と対立するものであるから、このような制約は可能な限り、避けるべきである。したがって、上述のような制約の契機を与えてしまいかねないという点で、保護義務という考え方はとるべきでない。

(2)もう一つは、憲法99条との抵触がありうるという点である。99条では憲法尊重擁護義務が規定されている。この義務を負う者は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」とのみ憲法上規定されていて、国民が省かれている。これは当然国民も上記義務を負うという理由ではなく、国民は憲法を尊重すべき義務を負わないのだということを積極的に示すものであり、あえて規定されなかったと考える。すなわち憲法は、憲法の敵に対しても、保護を与えたのであり、国民に憲法上の義務は及ばないのだという建前であると考えられる。そしてその義務が及ぶとすれば、社会通念上の限度を超えた場合にのみ、介入するという程度のものである。こう解することで、戦前のドイツへ向かわないように歯止めをかけられる。そうだとすれば、この99条の建前と相容れない保護義務を根拠とする私人間への憲法の直接適用は認めることができない。

(5)以上2つの理由から、保護義務は論拠とならないものと考える。

5.したがって、資料にあるような直接適用は認めることができない。

第二.問2

1.本件Xの提起した民事訴訟は、XがZの週刊誌Y1上の記載によって、自己のプライバシー、名誉権、名誉感情等が害されたとして、民法709条に基づき、精神的損害の賠償を求めるものであると考えられる。前述の問1より直接適用説はとらない為、間接適用を考える。間接適用説は私法の一般条項に憲法の趣旨を取り込むことで、憲法を間接的に私人間に及ぼすものであるところ、本件では民法709条に取り込み、Zの行為が不法行為といえるのかを考える。

2.Xは、様々な人道支援に取り組むなど国際貢献をしている。関連著書を出版するなどしていることからもわかるように、国際協調をし、人種差別・国籍差別をなくそうとする思想信条(19条)に基づく名誉感情を有していて、これは個人の人格的自律に資する極めて重要な利益である。他方Z、Y2としても出版社の一員として、表現の自由(21条1項)を有しており、これはY社の週刊誌を読むことによって情報を得られる国民の知る権利にも資するものであるから重要なものといえる。

ここでXの利益、Y側の利益いずれも重大なものであるとして、比較衡量的に判断するべきかとも思えるが、この基準を使用してしまうと、いずれも重大な利益であるにもかかわらずいずれか一方のみを救うことになってしまう(all or nothingになる)ので妥当でない。両者にとって最適な結論になるよう、企業目的・経営目的との関係で必要最小限な表現でなければならず、他の手段等がありうる場合には、その表現活動は不法行為になるものと考える。

3.まず企業目的を考えるに、Y側は保守的・排外主義的な主張で知られている週刊誌を発行するものである。このような傾向を有する当事者においてはある程度、その傾向に沿わせるべく、手段が他にないかを考えるべきである。

Y2としては当該会社が上記のような傾向を有することにかんがみ、ある程度自己の保守的・排外的主張に反するような人物等を攻撃する記事を書くこともありうる。しかしそれにあたっては、特定の個人の人格的自律を害する程度にまで及ぶことのないように配慮をすべきである。自社の傾向に沿う意見を記事に書くべき必要があるからといって、一般市民としての義務を免れられる理由はないといえるからである。

それにもかかわずY2は同じ誌面で取り上げた人物と混同して受け取られるような書き方をしており、上記のような配慮がない。

4.したがって、不法行為となる。

以上

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