この記事に書いてあること
制限行為能力者まとめ【表】取消権・代理権・同意権・追認権を整理
未成年者 | 成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 | |
---|---|---|---|---|
取り消せない行為 | ・単に権利を得る、義務を免れ ・処分を許した財産 ・許された営業 |
日常生活に必要な範囲の行為 | 13Ⅰ列挙事由以外の行為は取り消せない | 17Ⅰ以外の行為は取り消せない |
保護者の権利 | 同意権 代理権 取消権 追認権 |
(同意権なし) 代理権 取消権 追認権 |
同意権 代理権 取消権 追認権 |
同意権 代理権 取消権 追認権 |
みどりちゃん
制限行為能力者制度とは?本人保護と取引安全
制限行為能力制度とは、意思能力1)有効に意思表示をすることができる能力。意思能力がない者の取引行為は無効。がなさそうな人をあらかじめ4類型つくっておいて、これにあてはまる人が勝手に取引したときは、とりあえず取り消しうることにしたものです。
つまり、自分1人だけでは確定的に有効な取引をすることができない人であると、法律で決められている人たちがいるのです。これら4類型にあてはまる人のことを、制限行為能力者といいます。
- 未成年者
- 成年被後見人
- 被保佐人
- 被補助人
自分に有利な取引なのかが自分で判断できない人が、わるい人にだまされて財産をうばわれたりしないように、本人保護を図っています。
みどりちゃん
だから意思能力がなかったことを立証するんじゃなくて、これらの4類型のどれかにあてはまることさえ主張立証できれば取り消しうるとして、訴訟手続の面でも本人保護に配慮されています。
他方、能力があるかどうかは外から見てかんたんに判断できることではありません。
それに、常に意思無能力者の行為が無効となってしまうと、今度は周りの人が安心して取引ができないことになってしまいます(取引の安全)
そこで、制限行為能力者制度をつくり、本人保護と取引安全のバランスをとったのでした。
未成年者
20歳未満の者を未成年者といいます(4条)保護者は法定代理人です。未成年者の法定代理人は、同意権・代理権・取消権・追認権をもっています。
未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意(5条1項本文)がないといけないのですが、なかには例外的に同意がなくてもできる行為があります。
- 単に権利を得る、義務を免れること(5Ⅰ但)
- 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産を目的の範囲内で処分すること、目的を定めないで処分を許した財産を処分すること(5Ⅲ)
- 法定代理人から許された営業の範囲のこと(6Ⅰ)
また、未成年者が法定代理人の同意を得ないで取消をした場合、その取消を取り消すことはできません。そんなんややこしすぎるからです。
成年被後見人
成年被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く者で、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた者です(cf. 7条)保護者は成年後見人です。
本人保護がより強く必要とされる人ですから、全面的な代理権と取消権が保護者である成年後見人にはあたえられています。
成年後見人の取消権については、成年被後見人の自己決定を尊重すべく、何でもかんでも全部取り消せるわけではありません。
たとえば、成年被後見人が成年後見人に無断で電気代を払った場合、その支払い行為を取り消すことはできません。電気代の支払いは、日常生活に必要な範囲の行為にあたるからです。
反面、あんまりきちんと判断できない成年被後見人に法律行為の同意をあたえても、同意の内容通りに行動できるかというと微妙です。そのため、成年後見人には同意権がありません。あっても意味ないからですね。
被保佐人
被保佐人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者で、一定の者2)本人、検察官、あと身内もろもろが含まれますの請求によって家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者です(cf. 11条)保護者は保佐人です。保佐人は同意権・追認権・取消権・(一部)代理権をもっています。
被保佐人のスタンスは、基本的には単独で法律行為ができるけれども、本人を保護する必要が高い行為(13条1項列挙事由)だけ、保佐人の同意が必要とされます。
①元本を返してもらうこと(利息がもらえなくなるから)
②借金をする・保証をする
③不動産などの重要財産を売ったりする(住むとこなくなったら困るから)
④訴訟行為
⑤だれかに贈与をする、和解をする
⑥相続の承認・放棄、遺産分割(相続の承認で債務を負うこともあるから)
⑦贈与を断る、遺贈を断る。負担付贈与を承認する
⑨3年をこえる賃貸借(必要ないのに借り続けるのは損、必要なのに貸し続けるのも損)
贈与をすることはNG、贈与を断ることもNG、贈与をしてもらうことはOK、負担付贈与をしてもらうことはNGです。
みどりちゃん
全部載せているわけではないので、一度は条文をしっかり引いて確認してみましょう。
被補助人
被補助人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者で、一定の者3)本人、検察官、あと身内もろもろが含まれますの請求によって家庭裁判所による補助開始の審判を受けた者です(cf. 15条1項)保護者は補助人です。
補助人は、特定の行為についての同意権・代理権・取消権・追認権をもっています。
被保佐人の同意権の内容は13条1項に列挙されていましたが、被補助人の同意権の内容はその人ごとに個別に決めます(17条1項)
催告権/だれに催告すればいいのか&催告したけどスルーされたときの効果(みなし追認)
制限行為能力者の行為は、取り消しうる行為です。取り消しうる行為って言われても、取引をした相手方は困りますよね。
制限行為能力者と取引した相手方
そこで、こういう人には催告権(20条)がみとめられています。1ヶ月以上の期間をきめて、それまでに返事くださいというメッセを送ります。
催告を学ぶときには、①だれに対して催告できるのか②催告したけどスルーされたときの効果がどうなるか、の2点をしっかりと確認しましょう。
20条1~4項はややこしいので、とりあえずお手元の六法をひらいてください。
だれに催告すればいいかの話
制限行為能力者だったけれども、いろいろと回復して行為能力者になった場合はその本人に対して催告ができます(20条1項、ex.当時未成年だったけど今は20歳をこえてる人)保護者をつとめている人たち(法定代理人、被保佐人、被補助人)にも催告ができます(20条2項)
さらに、回復して行為能力者になったわけじゃなくても、被保佐人と被補助人にだけは直接催告することができます(20条4項)これは判断能力が劣っているといってもちょっとだからです。
催告したけどスルーされたときの効果
保護者をつとめている人たち、いろいろ回復して行為能力者になった本人は、判断能力がある人たちです。だから、催告をスルーしたまま期間がおわった場合、契約は有効にしちゃっても大丈夫ですよね。すなわち、追認したものとみなされます(20条1項後段、2項)4)追認とは、取り消しうる行為を確定的に有効にすることです
被保佐人と被補助人は判断能力が十分とはいえないので、この人たちが催告を無視したからといって、有効にしちゃうのはナンセンスです。かといって、不安定なままでは相手が困りますから、この場合は取り消したものとみなされます。
だれに催告するか | 催告スルーの効果 | |
---|---|---|
未成年者 | ×未成年者 | ー |
20歳こえた本人 | 追認とみなす | |
法定代理人 | 追認とみなす | |
成年被後見人 | ×成年被後見人 | ー |
法定代理人 | 追認とみなす | |
被保佐人 | 被保佐人 | 取り消しとみなす |
保佐人 | 追認とみなす | |
被補助人 | 被補助人 | 取り消しとみなす |
補助人 | 追認とみなす |
表にまとめるとこのような感じになりました。
みどりちゃん
「詐術」の判例(21条)
いくら制限行為能力者を手厚く保護するといっても、制限行為能力者である本人が行為能力者であるようにふるまって相手方をだました場合まで取り消しうるとするのでは、あまりにも取引の安全をないがしろにしすぎです。
そこで、制限行為能力者が「詐術」を用いた場合には、取消権は否定されます(21条)
「詐術」については、積極的にはっきりと口に出してだますだけでなくて、ほかのもろもろの言動とあいまって、取引の相手方を誤信させるような場合も含まれます。
みどりちゃん
保護者の同意があるかのようにふるまってだます場合も含まれます。ただし、単にだまっていただけでは「詐術」にあたりません。コミュ障の人は困っちゃいますもんね。
取消と無効の二重効について/制限行為能力者かつ意思無能力者
意思無能力者の行為は無効です。制限行為能力者の行為は取り消しうる行為です。制限行為能力者であり、かつ意思無能力者であった場合、その者の行為は無効になるのでしょうか、取り消しうるのでしょうか。
みどりちゃん
判例はどちらの効果も認めています(二重効を肯定)
「意思無能力者だったから無効です」という主張をしてもよいし、「制限行為能力者だから取り消します」という主張をしてもよいです。
無効とはいっても、制限行為能力者側が主張して初めて無効になるので(取消的無効)あんまり取消と大差なかったりしますし、どちらでも主張できるとした方が、制限行為能力者の保護により資するためです。5)無効には時効はないけど、取消には時効があるので(126条、5年で時効消滅)意思無能力者としての無効主張の方が、制限行為能力者にとって有利です。取り消しのみしか主張できないとすれば、制限行為能力者制度をつくったことで、むしろ制限行為能力者が不利な状況が生まれてしまったことになり、それでは本末転倒なわけです。
脚注
1. | ↑ | 有効に意思表示をすることができる能力。意思能力がない者の取引行為は無効。 |
2, 3. | ↑ | 本人、検察官、あと身内もろもろが含まれます |
4. | ↑ | 追認とは、取り消しうる行為を確定的に有効にすることです |
5. | ↑ | 無効には時効はないけど、取消には時効があるので(126条、5年で時効消滅)意思無能力者としての無効主張の方が、制限行為能力者にとって有利です。取り消しのみしか主張できないとすれば、制限行為能力者制度をつくったことで、むしろ制限行為能力者が不利な状況が生まれてしまったことになり、それでは本末転倒なわけです。 |
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