権利の濫用とは!要件/判断基準と具体例&判例|権利の濫用の禁止

権利の濫用の禁止(1条3項)と具体例

権利濫用は、民法1条3項に規定されています。いくら自分が権利をもっていたとしても、他人をあまりにもないがしろにするような行使の仕方はみとめられません。

1条3項
権利の濫用は、これを許さない。

権利をもっていれば、普通はそのまま行使できます。しかし、そうすると勘違いしたヤバい奴ってやっぱり出てくるんですよね。

たとえばあなたがフェラーリ買うじゃないですか。代金は2000万円です。きちんとお金を支払って、待ちに待った受け渡しの期日にクルマやさんに取りに行きました。

売買契約の代金債務を履行したら、もちろんフェラーリを受け取ることができるわけなのですが、行ってみたらクルマやさんにこんなことを言われました。

クルマやさん

先日受け取った代金、数えてみたら1999万9800円しかなかったんですよ。200円足りないんですよね。だからまだフェラーリをお渡しすることはできません。

2000万円のところ1999万9800円しか支払われていないのですから、たしかに足りてないことは足りてません。でも、2000万円のうちのたった200円です。

「相手が代金をちゃんと支払わない限りは、こちらも商品を渡しません」といえる権利のことを、同時履行の抗弁権(533条)といいます。

この権利をクルマやさんは濫用的に行使している状態です。さすがに不公平ですよね、こっちはすでに1999万9800円も支払っているのに何も渡してくれないんですから。

そういう感じの権利の行使の仕方は認めません、という規定が1条3項の権利濫用の禁止です。

たしかに権利自体はある、あるんだけれどもその権利行使を認めたら不公平なとき(権利行使を認めるべきではない必要性があるとき)には、例外的にそのもっている権利を使わせないようにしようという理論です。1)権利濫用の効果として権利自体がはく奪される場合もある。cf. 834条

法律は、悪い奴が自分の都合のいいように利用できるグッズではないのです。

「権利は認めてますけど、そんな使い方までは認めてねえからな!俺を利用して他の人を困らせるような真似は許さねえからな」という民法さんからのメッセージが聴こえてきますね(適当)

みどりちゃん

権利濫用の要件・判断基準/効果

どういう場合に権利濫用になるのでしょうか。そこの判断基準があいまいだと、安心して日常生活を送れません。これはやっていいのかな、だめなのかな?とよくわかんないままでは、困ってしまいますよね(cf. 一般的確実性)

権利濫用の判断基準・要件
権利の行使によって生じる権利者の利益と、相手方の利益(または社会全体に及ぼす影響)との比較衡量で決める(客観的な基準)

これに対しては、客観的な基準だけではなく主観的な事情も含めて判断しようという説もあります。たとえば「相手を困らせてやろう」という魂胆があったりしたら、その事情も考慮にいれて判断すべきだと考える説です。

権利濫用の効果
  1. 権利行使が認められない
  2. 逆に妨害の除去や損害賠償が命じられたりする
  3. 権利自体がはく奪される

権利濫用の効果は3つあります。短答式の試験で出てくることもあるので、試験対策として覚えておきましょう。

つぎは、具体的にどんな効果が認められたのか、判例を読んでいきましょう。

判例・宇奈月温泉事件とは?具体例でわかりやすく

権利濫用の判例として有名なのが「宇奈月温泉事件」2)大判昭和10年10月5日、百選Ⅰ1です。宇奈月温泉は富山にある山奥の温泉地です。

温泉を源泉から引いてくる温泉管があって、その長さは7500メートルありました。そのうちの6メートルほどが他人の土地にはみ出して通ってしまっていたんです。もちろん、他人の土地に勝手に温泉管を通したらだめですよね。

その状態に目を付けてずるいことを考えた奴がいました。土地の所有者からわざわざその土地を買ったうえで、温泉管の所有者に対し、こんな請求をしてきました。

ここは自分の土地だから、勝手に温泉管を通すな、どかせ。(所有権に基づく妨害排除請求)

やばい人

勘弁してくれって感じですよね。

原則はその土地の所有権を有しているのだから、所有権に基づく妨害排除請求権としての温泉管撤去は認められることになるはずです。でも、そんな請求は認められませんでした。

温泉街なのですから、温泉管がなければ終了ですよね。被告にとって温泉管は、それだけ超重要で必要不可欠なものであることに比べて、原告(やばい人)にとって所有権侵害されてる土地はわりとどうでもいい土地だったのです。急斜面で特に何に利用できる土地でもないし、しかも温泉管が通過している土地の面積はほんのわずかでした。

さらに原告の悪質な意図も勘案されてしまって(どかせないんだったら土地を買い取れと言って超高額な金額(自分が元の土地所有者から買い取った金額の約30倍)もふっかけていた)温泉管の妨害排除請求は棄却されたのでした。

注意
温泉管をどかせという請求は認められませんでしたが、だからといって他人の土地を勝手につかえるわけでもありません。他人の土地を利用している分の利用料はきちんと支払うべきなので、温泉管所有者は妥当な額の損害賠償を払って、お金で解決するように命じられました。

宇奈月温泉事件は、裁判所が「権利ノ濫用」という言葉を初めてつかい、その判断を明確に行った判例であるため、民法では重要な判例と位置づけられています。

信玄公旗掛松事件

画像はWikipediaより

「権利ノ濫用」という言葉をはっきり述べたのは宇奈月温泉事件でしたが、それに先立って権利の濫用という内容に触れていた事件もあります。

信玄公旗掛松しんげんこうはたかけまつ事件は、近くを通っていた蒸気機関車の煙によって、一本の老松が枯れてしまったため、松の所有者が蒸気機関車を走らせていた国鉄(現:JR東日本)を相手に訴えを起こしたものです。

「他人の権利を侵略・侵害することは法の認許するところではない、松樹を枯死させたことは、権利の内容を超えた権利の行為である。」
ー大判大正8年3月3日

国鉄はもちろん自分の土地に線路を引いて、自分の蒸気機関車を走らせていました。自分の土地なんだから、自由につかえるのが原則です。

しかし、蒸気機関車ですから周囲に真っ黒な煙がもくもく流れるわけですよね。

このように他人に迷惑をかけるかたちで所有権を行使することは「権利の内容を超え」ているからダメですと判断され、国鉄は松の所有者に対して損害賠償の支払を命じられました。

みどりちゃん

法律は、社会に役立つためにつくられたもの。法律を形式的に適用した結果が、常識はずれでは困るんだよな。法律のために社会をねじまげることになっちゃうと、本末転倒ですからね。

そのため、常識にてらし合わせた法律の解釈をしていく必要があるのです。

権利の濫用の濫用はやめよう

権利濫用は、具体的な事情を基に比較衡量で判断されます。それはすなわち、結果がどうなるのかがあいまいであるということです。

権利は行使できるのが大原則であり、それを修正して行使できなくする、しかも比較衡量というあいまいな感じで修正するんですから、権利濫用はめったに持ち出せる話ではありません。

何でもかんでも権利の濫用で片付けてしまっては、まさに「権利の濫用」の濫用になっちゃうね。

みどりちゃん

覚えておこう
権利濫用の話を持ち出すのは、最終手段。

脚注   [ + ]

1. 権利濫用の効果として権利自体がはく奪される場合もある。cf. 834条
2. 大判昭和10年10月5日、百選Ⅰ1

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

error: Content is protected !!