計算書類に付された無限定適正意見が無効なものであったときの問題その他

事例
X社は、監査役会設置会社である。2016年度の計算書類について、X社の会計監査人Pは無限定適正意見を付した。当該計算書類を取締役会は承認した。承認された2016年度計算書類を基に、X社の株主に対して分配する剰余金額を決定し、配当をした。

この事例で、会計監査人Pが付した無限定適正意見が有効なものではなかった場合(ex. 会計監査人Pの選任手続にそもそも問題があって、適法に選任された会計監査人によって付された意見とはいえない場合)、その配当の効力にどのような影響があるのかを考えます。まずは基本事項のおさらいです。

計算書類とは

計算書類として作成されるのは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表の4つです。計算書類は以下のプロセスで作成されます。

  1. 作成(435条2号)
  2. 監査(436条1号2号)
  3. 承認(436条3号、438条2号、439条)

無限定適正意見が付されていなかったら、計算書類の承認がなかったことになる

監査意見にはこれらの種類があります。

  1. 無限定適正意見:会社の財務状況を、「すべての重要な点において適正に表示している」旨を監査報告書に記載するものです。一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って判断します。
  2. 限定付適正意見:一部に不適切な事項はあるが、全体的に見てそれほど重要性がないと考えられる場合に、その不適切事項を記載のうえ、会社の財務状況は「その事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している」と監査報告書に記載するものです。
  3. 不適正意見:不適切な事項があり、それが全体にも重要な影響を与える場合に、不適切である理由を記載し、会社の財務状況を「適正に表示していない」と監査報告書に記載するものです。
  4. 意見不表明:重要な監査が実施できずに、十分な監査証拠が入手できない場合であって、その影響が財務諸表に対する意見表明ができないほどに重要と判断した場合に、会社の財務状況を「適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない」旨及びその理由を監査報告書に記載するものです。

 

計算書類の承認がなかったことになる

基本的に計算書類は取締役会で承認を得て(436条)定時株主総会へ提出し、決議を得なければなりません(438条2項)。

439条、規則135条
ただし、①監査役会設置会社であって、会計監査人による②無限定適正意見が付されている場合は、株主総会決議が不要になり、取締役会の承認のみでよくなります。

上記の439条による取締役会の承認のみの手続を経て配当をすでに行ってしまった場合で、後からその無限定適正意見が有効ではなかったと判明した場合はどうなるでしょうか。

有効な無限定適正意見(②)がないので、上記の要件②を満たしていなかったということになります。ということは要するに、今回は439条の適用ができないはずだったわけです。439条が適用できない場合だったので、今回は通常通りの手続を踏むべきだったということになります。つまり、取締役会の承認と株主総会の承認の両方が必要だったのです。

そうであるにもかかわらず、今回は株主総会の承認を欠いているので、その2016年度計算書類は、承認を欠くものになってしまいます。

分配可能額の算定はどの年度の計算書類を基にすればよいのか

分配可能額は、計算書類を基に算定します。そしてその計算書類は、最終事業年度(2条24号)のものを使用します。最終事業年度とは、計算書類が承認された直近の事業年度のことを指しています。

2016年度計算書類について、株主総会決議承認がされていないのであれば、その計算書類は承認を欠いていることになりますよね。したがって、今回の事例の場合、承認された直近の事業年度のものは、2015年度の計算書類ということになります。

すると、分配額は2015年度の計算書類を基にして計算しなければならなかったことになります。2015年度末日後に発生した利益は、分配可能額に含まれません。事例のように、2016年度計算書類を基にして分配可能額を算出していた場合、本来含めてはいけない利益を含めて計算してしまったことになります

会計監査人の立場

会計監査人は、会社の作成した書類が専門家の立場から適正かを調べて判断する役割の人です。会計監査人は取締役から見れば、いわば試験官的な存在です。したがって、取締役とは敵対的な関係になることが多いです。

会計監査人の選任手続で議案を出せるのは監査役会です。監査される立場にある代表取締役が議案を出せるとすると、自分に都合のいい人を選任する可能性があるからです。取締役が会計監査人をどの者にすべきかを提案すること自体違法であるとする説もあります(江頭参照)

また、形式的には監査役会が株主総会に新しい会計監査人を提案したという場合でも、代表取締役の圧力が監査役会に対してかけられ、実質的には代表取締役が提案したという場合にも、違法と考える場合があります。

粉飾決算があったとき

計算書類のひとつである損益計算書に計上された売上は4億円であったが本来の売上は2億円だったという粉飾決算があった場合、仮に取締役会の承認に加えて、株主総会の承認も経ていたとしても、そもそもその提出された計算書類自体が違法です。違法な計算書類を承認しても無効なので、その違法な計算書類を基に算出した剰余金額も違法なものになります。

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